佳作『人妻・恵美のこと』(7)(2012/02/15)
俺と恵美は不倫の関係だ。俺が離婚してひとり住まいを始めると、待ってましたとばかりに恵美が入り浸りになった。そんなある日、俺の父が亡くなり、葬式を終えて帰宅。その翌朝、ものすごい地震が…
◇
急いでテレビをつけると、すぐに地震速報が流れ始めた。
やがて、神戸方面の火災、ゆがんだ線路、倒壊した建物や阪神高速などの映像が次々と映し出されてゆく。
被害が刻一刻と拡大してゆく中、心配で西宮の実家に電話を入れるも、まったく通じない。
翌日、バイクで2号線をひた走り実家に到着してみると、家は全壊していて、昨日までの面影はどこにもなかった。
まもなくこの地震は阪神・淡路大震災と名付けられるのだが、母や兄は全壊した家屋の中から無事に救出されて、無事だったのはなによりだった。
◇
ある朝、目覚めると、横に寝ていたはずの恵美の姿がなかった。自宅に戻ったのだろうと安心していたが、現実は違っていた。
ある夜、恵美が夜中に帰宅しようとするので、問いただしてみると、
「送っていって…」
と、小さな声で言う。
自転車の後ろに乗せて送っていくと、恵美の指示する方向は自宅ではなく、ひと駅離れたマンションの2階だった。
中から見覚えのある男が出てきた。ときどき行く居酒屋で見かけたことのある男だった。
なるほど、そういうことだったのか…。恵美は新しい愛人を見つけたのだ。
7年も続いた関係に、とうとう終止符を打つときがきたと悟った。
帰ろうと思ったが、後ろ髪を引かれるような気持ちになり、男の部屋の前まで行ってドア越しにそっと耳をそばだてた。
中から恵美と男の楽しそうな話し声が聞こえてくる。
いたたまれなくなった俺は、その場からそっと立ち去った。
のちに知ったのだが、この男は学部や卒業時こそ違うが、俺と同じ大学の後輩だった。
この男に、一度だけだが、3人で飲まないかと誘われ、彼の部屋で飲んだことがある。
差しつ差されつしているうちに遅くなってしまい、この夜は3人で雑魚寝をした。
以来、恵美と顔を合わすことはなかったが、風の噂で元気に暮らしていることは知っていた。相変わらず、飲み歩いているらしい。
そして、それから10年ほどたったころ、例の男から恵美が肝硬変で近くの病院に入院しているとの報告を受けた。
知らぬふりもできず、見舞いに行くと、恵美は病室のベッドの上で点滴を受けていた。
色白だった顔は黄土色に変わり、たまった腹水のせいで、おなかがまるで妊婦のようにふくらんでいた。
「家に帰りたいよ…イシっちゃん…」
俺に気付いた恵美が力なく、そうつぶやいた。そこには、元気に飲み歩いていたころの面影など、みじんもなかった。
2週間ほどして、恵美の訃報を聞いた。
まだ55歳の若さだった。
今でも、俺の珍棒を咥えて喜々としている恵美の顔が懐かしく思いだされる。
(つづく) |